平成24年度補正予算により、文部科学省委託事業である”ナノテクノロジープラットフォーム”の共用設備が大幅に拡充されました。特に微細加工プラットフォームでは、マスクを使わずにデバイスを作製することができるマスクレス露光装置や原子層堆積装置(ALD)を始めとする様々な加工装置が参画する14実施機関に導入され、装置ラインアップの充実により利便性が格段に向上しました。本格運用に合わせて、この機会を多くの皆様に知っていただきたく、この度、3次元造形&薄膜実践セミナーを開催します。
セミナー前半では、マイクロ・レンズやマイクロ・ロボットの作製を可能にするグレースケール露光やレーザー加工装置による3次元造形技術と立体構造物への微細パターン形成技術についてご紹介します。セミナー後半では、様々な薄膜形成技術とそれらの応用について紹介いたします。また、各実施機関から支援事例を示すことで、微細加工プラットフォームが保有する加工装置を使って、どのような研究・開発のサポートが可能かをご理解していただこうと思います。また、このセミナーへの参加をより充実した機会にするために、無料実習コース(アドバンストコースは有料)を併設しています。産学官にかかわらず、多くの皆様のご参加をお待ちしています。
概要
開催日時 | 2014年 9月 26日(金)9:55~17:30 |
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場所 | 東京工業大学(大岡山キャンパス) 大岡山西8号館E 情報理工学研究科大会議室(10階) http://www.titech.ac.jp/maps/ookayama/campus/ookayama.html |
詳細 |
【3次元造形技術とその応用】 |
募集定員 | 120名(先着順) |
参加費 | 無料 |
お申込み先 | https://nanoworld.jp/npf/training/h26-3/ 8月5日(火)よりお申込み開始 |
お問い合わせ先 |
(独)産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門 ナノプロセシング施設 TEL:029-861-3210 FAX:029-861-3211 Email:npf-info-ml(at)aist.go.jp ※(at)をアットマークに変更してご使用ください |
開催報告
9月26日(金)東京工業大学(大岡山キャンパス)情報理工学研究科大会議室において、『3次元造形&薄膜実践セミナー』を北海道大学、東北大学、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、東京工業大学、名古屋大学、豊田工業大学、香川大学の8実施機関の共催で開催しました。受講者は89名に達しました。時間を超過するほど活発な質疑が行われて非常に盛況でした。
午前中は3次元造形技術についてのセッションで、初めにナノシステムソリューションズ社の木村様からマスクレス露光装置の解説と特に、グレースケール露光に焦点を当てた立体構造の作製についての紹介がありました。海外ではこれらの立体構造とメッキ技術を組み合わせてナノインプリント等の金型を作る応用が多く報告されているようです。次に、名大の新井先生から血管手術トレーニングに必要な擬似血管の作製を想定した、フェムト秒レーザー加工プロセスが紹介されました。レーザービームを走査させながら、オン・オフと焦点高さを制御することで、レジスト内部に直接3次元パターンを形成する技術です。将来技術として非常に魅力的でした。次に、豊田工大の佐々木先生から、露光プロセスを繰り返すことで立体構造を作製するプロセスと立体構造物にレジストを均一に塗布することが可能なスプレーコート技術が紹介されました。午前中の最後の講演では、香川大学の鈴木先生から回転傾斜露光法という、遮光マスクを透明基板の裏側に予め設けておき、基板を回転させながら裏面から斜めに光を照射することで、複雑な立体構造を形成する斬新なアイデアが紹介されました。ガラスマスクを直接コンタクトさせて回転露光を行うことも可能なので、透明基板に限らずSi基板上にもパターン形成が可能とのことでした。
午後のセッションでは、様々な薄膜形成技術とそれらの応用と各実施機関からの支援事例が紹介されました。初めに、北大の太田先生からパルスレーザーデポジション(PLD)法による酸化物成膜技術が紹介されました。 ターゲット組成の転写性と堆積速度・厚さの制御性が特長で、透明電極ITO単結晶エピタキシャル薄膜や量子サイズ効果による巨大熱電能を発現するSrTiO3/Nb:SrTiO3人工超格子の作製に加えて、低温成膜+キャップ構造を高温アニールすることによるZn等の蒸気圧の高い元素を含む複雑な層状酸化物InGaO3(ZnO)m等の固相エピタキシャル成長法が紹介されました。次に、日立中研の新谷様より産総研グリーンナノエレクトロニクスセンター(GNC)での成果である相変化メモリー材料(GeTe、あるいはSnTeとSb2Te3を交互に積層したGe(Sn)Te/Sb2Te3超格子)の作製とそのメモリデバイス応用の紹介が行われました。原子層レベルの超格子を汎用のスパッタリング装置(実施機関の一つであるNIMSを利用)を使って実現できることを示すとともに、スイッチングパワーを従来のバルクに比べて1万分の1に低減できる可能性を示しました。超格子構造ではバルク材料で考えられている熱エネルギーによる相変化ではなく、横方向電界によるGeやSn原子の移動が効いていそうとのことでした。次に豊田工大の吉村先生から、カーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンのCVD成長の触媒となるFeやCoの初期膜厚を制御することでのそれらの複合体を成長させる手法が紹介されました。また、触媒であるCu表面を高圧のH2/Ar雰囲気で熱処理することで表面核密度を制御して、大面積のCVDグラフェンを成長できることが示されました。午後の前半最後の講演では、東北大の鈴木先生から応力制御したPECVDによるTEOS膜を使った、EUV光源用の赤外線カットフィルター作製への応用が紹介されました。EUV光が吸収されない自立型のハニカム構造を大面積で作製するためには、SOI基板をバックエッチした際に起こる埋め込み酸化膜の残留応力によるクラッシュを抑えることが重要で、これを打ち消すために応力制御されたTEOS膜をハニカム・スタットに保護膜としてコンフォーマルに形成し、最終的には埋め込み酸化膜共々、同時に除去するという非常にアクロバティックなプロセスでした。PECVD膜の応力を制御する方法として、バイアスパワーを変えるだけでなく、バイアス周波数を変える、あるいは異なるバイアス周波数で成膜した膜を交互に積層する等の方法も同時に紹介されました。また、SOI基板に比べて低コストで、膜内の応力勾配を小さくできるEpi-Poly成膜技術(高速の柱状ポリシリコン成長)とその応用として、今まで製造実例が無かったスキャナーミラーデバイスの作製プロセスが紹介されました。
午後の後半は、各実施機関が成膜支援についての事例を紹介しました。北大は、ALD成膜について、凹凸のある基板に対してのコンフォーマルな成膜特性を示すとともに、ALD成長といえども成膜温度、酸化剤などによって成膜レートや膜質(結晶性や密度)に影響が出るため注意が必要とコメントしました。まだ未整備ではあるが、ナノ粒子への成膜も今後可能になるとのことでした。東北大学は、カンチレバーやダイヤフラム作製への応用を想定したLP‐CVDによるSiO2膜やSiON膜のストレス制御と超臨界状態を応用して狭い空隙に成膜が可能な超臨界成膜技術を紹介しました。産総研は、ALDによるAl2O3膜の電気的な絶縁特性について紹介しました。NIMSは、ALD成膜時のパージ時間を短くすると膜質が大きく変化し、Al2O3膜でもレジスト現像液を使って簡易にパターンニングができることを示し、応用としてグラフェンデバイス作製プロセスを紹介しました。東工大は、その特徴であるMOVPEによるInP系の化合物半導体成膜についての支援例を紹介しました。また、InGaAs上へのALDによるAl2O3膜を堆積することで良好な半導体/絶縁膜界面が形成できることを示しました。
最後に、コーディネータの落合から、微細加工プラットフォームの概要、及び利用方法についての説明を行いました。