分かりやすいコミュニケーションで関係を取り持つ、“ナノの母”流の技術支援
香川大学 中田智恵美さん・庄司聡子さん インタビュー 2014/7/11(金)

(はじめに)
 香川大学の特徴は、全員が補助員の女性で支援の多くを切り盛りされてこられ、中四国連合の“ナノ女”の活動にもつながっていると伺っています。また、それらの経験豊富な補助員のなかには、ご家庭の都合で転居された先に近い実施機関にて補助員として支援業務を継続されている方もいらっしゃり、プラットフォーム内の連携が促進されています。研究者とは違う、女性ならではのお話しも伺えるのではないかと期待しています。
 私から質問する形でインタビューを進めさせていただきたいので、ご協力をお願いします。

香川大学社会連携・知的財産センター ナノテクノロジー支援室中田智恵美さん・庄司聡子さん

香川大学
社会連携・知的財産センター    
     ナノテクノロジー支援室
(右から)中田智恵美さん・庄司聡子さん

(Q1)この仕事につくようになったキッカケ、経緯などをおしえてください。

(中田さん)
 もともとは、文系で、はじめは金融系の企業に勤めていました。5年ほど働いたあと、子供が生まれて退職しました。その後、半年ほどして、勤務時間にあまり制約のない職場ということで、FROM香川で募集があり、文理問わず、研究の補助ということだったので、興味が湧き、何も知らないまま面接を受けました。面接の先生は、異分野だからいいのではないかと思ってくれたようです。主人は、やってみたいと興味を持った事は何でもとりあえず実行してみたら、と反対はせずに応援してくれました。

(庄司さん)
 地質学系の学科出身で、はじめはその分野の企業に勤め、5年ほど働いて退職しました。実は、ここは2回目で、はじめは事務方を3年やり、夫の転勤を期に一旦やめて、1年前に再び働き始めました。研究補助をすることにあまり抵抗はありませんでした。

(Q2)担当している仕事について、教えてください。面白かったこととか、困った事とかのエピソードでも結構です。

(中田さん)
 はじめは、先生についてクリーンルーム内で半年ほど微細加工の研修を受けました。その後1年半ぐらいで、先生の指導を受けながら、プロセスのフローに沿って支援・加工を進められるようになりました。大変なのは、原理的なこと、なかなかその原点までは理解できないので、学生さんに教えてもらったりもします。だいたい、自分は学生時代には、物理は苦手でした。
 微細加工は、なかなか一回ではうまく行かずに繰り返したりはしますが、先生の指導を受けたり、利用者とコミュニケーションをとりながら支援業務は遂行できるようになっています。モノづくりの楽しさはよくわかります。できた時はとても嬉しい気持ちになります。はじめてのことはつまずくこともありますが、近い将来にはクリーンルームの装置は一人で全部できるようになりたいと思っています。
 困った経験としては、企業から期限付きで来ている人のサンプルを最後の最後で割ってしまったこととか、卒研の学生さんの試料を失敗して卒論発表会に間に合わなかったこともありました。しかし、この学生さんは、卒論の発表の後、卒業するまでの間に、頑張って納得いくようにやり直してくれました。

作業中の中田さん

作業中の中田さん

(庄司さん)
 私はまだ一人だけでは十分には進められないところがあるので、逆に大きな失敗は今のところはありません。ただ、薬品の種類が多いので、その名前や性質を覚えるのが大変です。アドバイスを受けながら進めて、その通りにできた時はとても嬉しく思います。トラブルの時は別として、一通りの装置は一人で操作できるようになりたいと思います。
 前の会社でCADの経験があったので、マスクの図面設計などは苦になりませんでした。マスク作製の描画工程は別の担当者が行っていますが、それ以外の図面設計からエッチングまでの支援を主に担当しています。図面設計は基本的に利用者の方からのご希望を伺って設計補助をするのですが、どのようなアライメントマークを描いたら後々の作業効率が良くなるかなどは図面設計支援者の助言や処理の仕方によって大きく変わるものなので、これからもっと勉強して行く必要があると思います。利用者の方とはメール等で図面のやり取りを行うことが多いのですが、迅速に対応できるように心がけています。皆さんのお役に立てているのではないかと思っています。

(中田さん)
 得意なことというよりは、私はモノを作るのが好きで、そのためのことは苦になりません。ただ、イエロールームはなかなか慣れませんでした。夏は暑く、クリーンウェアで全身を覆っているので、汗が流れるのがわかるほどでした。

作業中の庄司さん

作業中の庄司さん

(Q3)この仕事についてよかったこと、大事にしていることなどがあったら、教えてください。

(中田さん)
 この仕事につかなかったら出会えなかった人と出会えることです。香川県だけでなく他県の人、全国の大学の人、企業の人に会えます。
 また、この支援業務では利用者の意図を理解するために、特にコミュニケーションは大事だと感じます。自分自身もコミュニケーションしながら、教えてもらい、吸収できていると思います。先生によってもモノの見方も違い、いろいろと新しいことを知ることもできます。
 理系の学生さんは、ちょっと思い込みの強いところがあるので、先生との間でコミュニケーションがうまくいっていない時があり、先生には聞けないが私たちには聞けるということがよくあります。また、企業の方も大学の先生というだけで敷居を高く感じ、こんな事聞いていいのかな・・・みたいな時は、気軽に私達に相談頂いています。
 先生との間に入って、先生、利用者のサポートができる、これは、考えてみれば家庭での私の立場と同じで、子供と父親との間に入り良い関係にする。学生や利用者と、先生の間で仲を取り持つということになっているのではと思います。加工のちょっとした間などに、興味を持っていることなどを話したりして、話しやすい関係づくりを心掛けています。

(庄司さん)
 私は、若い学生さんと一緒に仕事ができるので、若い気持ちでいられるのがありがたいと思っていますし、装置操作や加工のこと等で分からないことがあれば学生さんが丁寧に教えてくれて、助けてもらっています。また、いろいろの考えの人に会えるのも楽しいし、勤務時間に融通が利き、家庭生活と両立ができる良い環境で働くことができていて満足しています。子供の教育にとっても、良い影響があります。私が疲れているときも、お母さんは働いているからと子供は理解してくれ、思いやりを持ってくれます。

(まとめ)
 「失敗は成功の母」といいますが、「失敗は成功の父」とはあまり言いませんね。“成功”も“失敗”も認めてくれる、そんな関係を作り保つ、“ナノの母”流の丁寧な支援があることに気が付きました。