共にチャレンジし、経験知を積み重ねる
京都大学 ナノテクノロジーハブ拠点 大村英治さん インタビュー 2017/2/9(木)

京都大学
ナノテクノロジーハブ拠点
大村英治さん

(Q1)本日はお忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます。 まずこれまでのご経歴をご紹介ください。

(大村さん)
 ・半導体系企業で生産技術エンジニアとして25年間、特に液晶、半導体パッケージ、高密度積層基板などに取り組みました。 2003年、縁あって文科省のプロジェクトである京都大学ナノテク総合支援事業に加わり、以来現在のナノテクノロジープラットフォーム事業まで継続して技術支援を主体にした業務を行っています。

(Q2)足掛け14年共用設備事業に携わっておられるベテランなのですね。 京都大学ナノテクノロジーハブ拠点の支援の特徴は何でしょうか。

(大村さん)
 ・保有する90余りの装置群の構成から言えることは、MEMSデバイス関連での強みです。 多くの実績と共に装置群の拡充も図られ、ナノスケールの精度まで微細加工出来ることを強みにしています。 かたやトランジスタ、ICなどのいわゆる半導体デバイス関連については装置群が不十分で、一部サポートできないプロセスがあります。 

 ・もう一つ特徴を挙げるとすると、技術相談への対応が厚いことでしょうか。 京都大学ナノハブ拠点ではいろいろな分野での知識・経験・実績を持つ者がいまして、全員で様々な技術相談に対応できるよう努めています。 ユーザーから技術相談が持ち込まれますと、課題の内容や難易度にもよりますが、成膜、リソグラフィー、エッチング、デバイス評価などそれぞれ知見を持った技術支援者が一同に会し、ユーザー様と共に前後のプロセスとの整合性などもしっかり議論・検討し、材料選定・プロセス設計をしていきます。

オペレーション中の大村さん

(Q3)大村さんのご専門は何でしょうか。

(大村さん)
 ・私は電子線描画装置、レーザー描画装置、マスクレス露光装置など主にリソグラフィー関連を担当しています。 リソグラフィーのプロセスは基板洗浄から始まり、レジスト塗布、露光、現像、リンスまでで、エッチングプロセスの前までとお考え下さい。 14年前は電子線描画装置一台しかなく利用いただくにもいろいろ制約がありましたが、現在では前後のプロセスも含め多様な装置群が整いましたので、より高いレベルで幅広い支援が出来るようになったと思っています。

(Q4)技術支援する中でいろいろ苦労されることは多いと思いますが、特に気をつけておられる事は何でしょうか。

(大村さん)
 ・装置トラブルは研究開発の遅延につながりますので、いつでもすぐ使える環境にしておくことが大切と心掛けています。 たまに装置の特殊機能を使いたいというご要望があります。 その場合には、装置メーカーに問い合わせるなど私自身勉強しながら、となることもありますが、早期対応に努めています。

 ・初めて京都大学ナノハブ拠点を利用するユーザー様にはオペレーショントレーニングを受けていただくことになります。 ユーザー様は企業の研究者と学生を含めた大学の研究者が半々でしょうか。 皆さんいろいろ勉強されていて知識はおありですが、プロセスの実経験がなく初めて利用される方も結構います。 持ち込まれる案件には、例えば電子線描画の場合、ビームの近接効果などを考慮すると極めて困難なパターンや、段差を考慮すると通常のリフトオフ工程では作製が難しく工夫がいるようなときがあったりします。 そのような場合、私の知見・経験から考えて出来そうなこと、出来そうにないことを伝えますが、明確に出来ないこと以外は共にチャレンジするよう努めています。 場合によってはプロセスを提案し、どこがチャレンジャブルなのかを納得していただき、トライしていただきます。 基本はユーザー様自らオペレーションしていただくのですが、特殊な使い方や新しい課題への挑戦には常に相談に乗り、一緒に検討を重ね研究成果の早期最大化に貢献できるよう心がけています。 

(Q5)共にチャレンジすることは技術の進化に繋がりますね。

(大村さん)
 ・経験知を積み重ねることは重要で、財産です。 企業ユーザー様、大学在籍ユーザー様の一部には過去の知見が生かされていないこともあるように見えます。 同じ研究室の継続研究の場合、もちろん過去の研究成果の上に新しい課題を形成するほうが効率的です。 しかし、研究者が変わるとき、プロセスに関する引き継ぎがされていない場合もあります。 プロセス設計上のノウハウの伝え方の難しさがあるのかもしれません。 そのような場合にも対応できるよう、我々微細加工プラットフォームにプロセス技術資産を積み上げていくこと、そして研究成果創出の効率化に貢献していく。 まさにプラットフォームの役割が期待されていることを強く感じます。 また若手の研究者には、一度でもプロセスに接することで今後の研究の幅が広がってくれたら嬉しいなぁと思っています。

若手トレーニングの風景

(Q6)大村さんは若手の指導にも熱心とお聞きしました。

(大村さん)
 ・熱心かどうか自分ではわかりませんが、毎年実施しているMEMS実践セミナーで京都大学実習コースの指導を担当しています。 H28年度は「PDMS(ポリジメチルシロキサン)を用いたマイクロ流路の作成」というテーマでした。 流路設計、作製、評価までのプログラムです。 スクール参加者が2流体の混合を目的としたマイクロ流路デバイスをつくるため、流路内に障害物を配置するデザインを自分で考えて作成し、実際に作製するものです。 最終的に2流体(赤インク、青インク)がマイクロ流路を流れていき、きれいに混合されるかどうかを確認する実体験をしてもらいます。 過去の成功例、失敗例を参考にしてデザインしてもらうのですが、実際はなかなかうまく混ざらない。 今年度はある会社の研究者の方が参加されていまして、結果的に完全ではないのですが一部混ざっていましたので感動されていました。 こういうのに接すると素直に嬉しいですね。 今後、実習での経験をご自分の研究に生かしていただけましたら、さらに嬉しく思います。 また実研究で一緒に仕事ができればこれも嬉しいことです。

お忙しい中、本日はどうもありがとうございました。
 大村さんは謙虚な話しぶりながら熱い心をもったベテランの技術支援者でした。 趣味は古墳巡りとのこと。 古代から飛鳥時代、奈良時代にロマンを感じ、古墳や天皇陵を散策されているようです。 こちらについても(謙虚ながら?)熱いお話が伺えそうです。