“まず、やってみる” がモットー
豊田工業大学 梶原建さん インタビュー 2014/7/30(水)

豊田工業大学 共同利用クリーンルーム ナノテクノロジープラットフォーム 支援員 梶原建さん

豊田工業大学
共同利用クリーンルーム
ナノテクノロジープラットフォーム
支援員 梶原建さん

Q 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございました。初めに梶原さんのご経歴をご紹介いただけますか。

・大学院で半導体(シリコン)界面の研究を専攻した関係で、当時、半導体集積回路(IC)研究室を新しく立ち上げていたデンソーに入社しました。自動車用パワーデバイスの開発や、ハイブリッドICの信頼性試験、検査、管理業務を30年ほど担当していました。そのような折、クリーンルーム職員の方の定年退職の後任として声をかけて頂き、豊田工業大学にお世話になることになりました。着任後は、クリーンルーム施設、及びプロセス設備の維持・管理をはじめ、学生実習の指導や、学内の先生方からの依頼工作、企業の研究員の方の技術相談などを担当していました。
そうこうしている内に、2007年度から始まった第2期のナノテクノロジーネットワークに応募することになり、必要書類の作成などの準備を行いました。そんなご縁で、ナノネット時代も含めて7年半余り、豊田工業大学の施設共用事業において技術支援業務全般を担当しています。

・何から何まで、すべておやりになり、凄いですね。

・会社にいた当時は所属部署が創成期だったため、設計からプロセスから評価まで、何でも自分でやっていました。やらなければ仕事が前に進まないという環境だったのかもしれませんが、習慣になっていて、それが今役に立っているのかもしれません。子供の頃から物づくりが好きでしたし、このような仕事は嫌いではないのも確かです。

Q 技術支援の様子をお聞かせください。

・電子線描画装置やUVリソグラフィー装置、イオン注入装置や熱処理装置、スパッタリング装置や電子ビーム蒸着装置、RIE装置など14台(関連装置を含めると約20台)の設備を担当しています。本学のクリーンルームでの研究は、太陽電池、MEMS、磁気メモリー、ナノデバイス等と広範囲ですが、私はその中で、シリコンプロセスをベースとした技術代行中心の物づくり支援を行っています。昨年度は26件の支援を担当しました。

Q 豊田工業大学の全支援件数のおよそ半分ですね。最近の支援事例はどうですか。

・補正予算でマスクレス露光装置を導入していただいたので、パターン設計・変更を含めた待ち時間の短縮と、評価して効果を確認するまでのサイクル期間の短縮により、効率の良い支援ができると期待しており、すでに5件の支援を実施中です。

データ処理PCの前で

データ処理PCの前で

Q “効果を確認する評価サイクル期間の短縮”というのは、まさに企業的な価値観ですね。ところで、同じマスクレス露光装置は、豊田工業大学の他に東京工業大学と香川大学にも導入されましたが、立ち上げに際して何か共同で実施されたことはありましたか。

・設備取扱いマニュアルを準備する中で、他大学さんへ草案を提示して意見を頂きながら加筆修正するなど、共通マニュアルの完成度を高めました。また、装置メーカーのアドバイザーによる設備性能限界の確認とそれを踏まえた注意点等の取扱い講習会を開催しました。

Q 支援業務で気をつけていることを教えてください。

・私の場合は技術代行が多いのですが、特に遠方の方とは直接お話しする機会が少なく、メールや添付文書等でやり取りをしています。その場で直接聞くことができないことと、ユーザー自身も、例えばプロセスの詳細まで良くわからない場合もあるので、依頼者の意図を正確に読み取るためにも文献調査をするなどして、積極的にユーザーに提案・相談をしながらプロセスフローや仕様を決めています。そのような調査や工夫を通して、自分の引き出しを多くするように心がけています。自分自身のスキルアップも感じることができます。

Q 経験のない支援でもお受けするのでしょうか。

・余程のことがない限り断りません。やったことがなくても、この辺かなという勘や自信もあるので。

Q なんでも自分でやらなければならなかった時代に育った経験でしょうか。

・そうかもしれません。ナノネット時代から7年半にわたり、ナノテク支援を曲がりなりにも続けてこられたのは、なんと言っても若い時に、半導体プロセスに実際に手を染めてやってきたことがベースになっていると思います。

クリーンルームで作業中

クリーンルームで作業中

Q 苦労した事、あるいは残念だったことはありましたか。

・従来の培養法に代わってバイオチップ(マイクロ流路)を使って、早期に大腸菌を検出したり、量子ドットによるマーカーで癌細胞を区分し、創薬に対する効果を早期に確認することができる検査システムの開発を行っているベンチャー企業の支援を4年間行いました。まず流路部分の作製にあたっては、PDMSから始まり、製品としてのばらつきが少なく生産性の高いシリコン鋳型によるホットエンボス加工、最後は光学的特性に優れた石英エッチング加工と、製品の要求仕様に合わせてサポートを続けてきました。ここまでは山あり谷ありでしたが、それなりに上手くゆき、企業の方にも満足していただけたのですが、検出システムの開発と評価等を含めた開発期間とその間の資金確保等の問題で、結局、ビジネス的には断念せざるをえなくなった事が残念でした。

・技術的には何とか目途が立ちそうだったのにビジネス的に撤退とは、一緒になって開発を進めていただけに残念でしたね。

・ナノテクという分野は、目で判断できる領域が非常に少ないので、結果が良かったのか悪かったのか、判断に時間とお金がかかってしまうのが支援側にとって悩ましい問題です。

Q その通りだと思います。ところで、梶原さんのモットーを教えてください。

・“なんでも、まずやってみる。チャレンジ精神“でしょうか。技術支援者交流会で、いろいろな技術支援員の方のご自身の業務に対する豊富な知識や苦労された点、工夫されたお話を聞くと、“若い人もがんばっている。へこたれちゃいかん“という気持ちが湧いてきて、モチベーションの維持・向上に大いに役立っています。良い刺激です。

・本日はどうもありがとうございました。

梶原さんは、物静かな話しぶりからは想像できないほど、熱い心をもったベテランの技術支援者でした。最後に、“日々の仕事はもちろん大切ですが、関連した幅広い知識、技術、技能を習得しようとされている若い方の努力とモチベーションの継続を陰ながら応援しています。”と話されました。