実務経験を生かした喜ばれる支援を目指しています
早稲田大学 由比藤勇さん インタビュー 2014/6/24(火)

NB5000型FIB-SEM(集束イオン/電子ビーム加工観察装置)の前にて

早稲田大学ナノテクノロジープラットフォーム
微細加工プラットフォームコンソーシアム
准教授 由比藤勇さん

NB5000型FIB-SEM(集束イオン/電子ビーム加工観察装置)の前にて

Q 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。まずこれまでのご経歴をご紹介ください。

・民間企業の研究所に20年間、工場に17年間勤務しました。企業での研究テーマは電子線源の開発で、電界放射電子銃の初期の研究からスタートし、電子銃のエミッタ材料の開発からてがけました。その後、磁気ヘッドの研究開発に従事することになり垂直磁気記録用ヘッドと磁性膜の研究を行いました。工場に異動してからは、薄膜磁気ヘッドのプロセス設計、製造、海外工場(フィリピン)での生産も経験しました。

・2008年4月、縁あって早稲田大学カスタムナノ造形・デバイス評価支援事業(ナノテクノロジープラットフォーム事業の前身であるナノテクノロジーネットワーク事業)の技術支援員として赴任しました。

Q:足掛け7年共用設備事業に携わっていらっしゃるベテランでいらっしゃるのですね。早稲田大学の技術支援員の中では3番目に古参とお伺いしました。普段の業務で気をつけていらっしゃることはあるでしょうか。

・業務上注意していることは、第一に安全の確保です。クリーンルームでは学生さんも多数利用していますが、実験室作業に関しては初心者であるので気づいたら必ず注意して事故やトラブルが発生しないように目を光らせています。

クリーンルームにて電子線露光装置の講習

クリーンルームにて電子線露光装置の講習

・二番目に心がけていることは、自分を含めた支援組織の技術レベルの向上です。利用者に満足していただける支援の実現には高い技術レベルが求められると認識しています。企業の研究所、工場部門で長い経験はありますが、共用設備事業ではこれまで扱ったことの無い装置を次々に担当しました。
最初は当時担当者がいなかった電子ビーム露光装置を担当することに。学生から3時間オペトレを受けた後は、独学でした。マニュアルを読み込み、自ら電子ビーム露光装置メーカーに通って指導を受け、何度も実験を繰り返して身に着けました。電子ビームに関しては、企業時代に扱ったことがあり、SEMやFIBを含めて荷電ビームには比較的馴染みがあり理解は早かったです。その後は、成膜装置、エッチング装置と幅を広げ、現在は10台ほどの装置を担当しています。XeF2エッチング装置は自作しました。

・成膜装置を担当し始めたとき、支援の幅を広げるためにはイオンビームスパッタ装置が必要で導入を考えたがお金がありませんでした。そこで中古装置販売会社に行き、150万円で売りに出ていたイオンビームスパッタ装置を半額以下に大幅に値引きして頂き、大学から購入資金を出してもらって導入にこぎつけました。これで早稲田の成膜技術の幅を広げることができました。

・最近の装置は、操作性が向上しているが、装置の中身まで手を入れて使うことができません。古い装置は、自分の思い通りに調整や改造が可能であり、支援の幅を広げられます。

微細加工プラットフォームの技術交流会にてエッチング技術の発表

微細加工プラットフォームの技術交流会にてエッチング技術の発表

Q 早稲田大学の支援の特徴は何でしょうか。

・早稲田大の支援技術の特徴はめっき技術、インプリント技術、また装置群の特徴としては分析装置群が充実していることが特徴です。

Q これまでの支援の成功もしくは失敗事例をご紹介いただけるでしょうか。

・悔しい思いをしたのは、ある大学の先生からSAWデバイスの技術代行を依頼され、ほぼ1年間支援しましたが最終目標の特性が出ませんでした。利用者の先生は、設計にも問題があるかもしれないと言っていただき責められることはありませんでしたが、技術支援としては目標達成できなかった残念な思い出です。

・またGaAsの光デバイスの作製支援では、何回か試作し研究開発に寄与できました。そこまでは良かったのですが、最後に試作したウエハを割ってしまい、大変申し訳ないことをしてしまいました。

Q 支援業務に大変責任感を持っていらっしゃる方だと拝見いたしました。支援業務の特徴は何でしょうか。

・早稲田では、利用者自身解決法がわからない案件を相談されることが多いのですが、その場合は可能性を確かめる予備実験を無料で行い利用者と相談して決めています。手間はかかりますが利用者に喜ばれている理由の一つだと思います。

・装置面では、分析装置が充実しているので、もっと外部の方に利用していただきたいと思っています。

早稲田大学ナノテクノロジープラットフォームの技術スタッフの皆様(事務室にて)

早稲田大学ナノテクノロジープラットフォームの技術スタッフの皆様(事務室にて)

Q由比藤様がご対応している支援件数はどのくらいでしょうか。

・1年近くに渡る長期の技術代行が2件。それより短い通常の案件は技術代行と共同研究を合わせて年間20件ほどです。

・直接的な支援以外に、利用者が条件出しをせずに利用できるように担当装置のレシピの種類を増やす基礎データ取りの実験を行い、レポートとして提供しています。利用者から問い合わせがあったときに最適なレポートをコピーして手渡すように心がけています。

Q 技術レベルの向上として、研究会などにも参加されるのでしょうか。

・学会にはあまり行きませんが、研究会、セミナー、展示会に参加します。希望すれば参加させてもらえるので機会を見て参加しています。最近はプラットフォームが主催する研修も大変参考になりますので参加させてもらっています。

Q 技術支援業務を通じてやりがいを感じるのはどのような時でしょうか。

・企業の方には、要求された仕様を満たす加工を達成し製品開発に貢献できた時です。また利用者から装置の操作方法やレシピについて尋ねられることが多く、特に学生さんに頼られて質問に答えて教えて上げられるのは大変な喜びです。

・実験、研究は興味が尽きず、これまでの技術経験を活かして研究現場で活躍できることに感謝しています。

由比藤様はビーム技術を基礎として、リソグラフィ、成膜、エッチングと多くの加工技術を担当されています。装置改造や実験に大変意欲をお持ちのベテランです。また安全第一を基本にされ、学生さんにも信頼されている頼れる方であると感じました。笑顔で多岐にわたるお話をいただきました。今後もご活躍をお祈りしております。